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◆ジノとスザク


ジノ、と呼ぶ声は記憶の中とひとつも変わらなかった。
「……スザク」
死んだはず、という考えはすぐに霧散した。発表したのはブリタニア……すなわちルルーシュだ。
「また何か企んでるのか?」
怒りは度を越すと、かえって頭を冷やしてくれるらしい。けれどおしつぶしたような声音にも、彼はただ微笑むだけ。
「明日」
ぽつんと響いた単語は、意味が理解できぬまま消えた。
聞き返すことも出来ず、ただスザクの淡い笑顔を見つめる。
「明日、ブリタニアが崩れる」
君だけでなく、アーニャも、他のすべての牢の鍵がはずれるから。
「出来れば、怪我人を出さないように逃げてくれ。ジノなら先導できると思って」
「おい!」
今更なんだ。ブリタニアはもう亡いじゃないか。
先帝陛下は骸も見つからぬまま。首都はフレイヤで消し飛び、なにが今更崩れると――
「……」
言おうとして、けれど言葉にはならなかった。
「おまえ……おまえたち、は」
明日崩れるブリタニア。すなわちそれは、ルルーシュとスザクの―――
「頼むよ、ジノ」
スザクの笑みは穏やかだった。頑なな覚悟が、その瞳に揺らいでいるのが見てとれたけれど。
それでもなお、凪いだ海のように見えた。

ナイトオブゼロ。ラウンズを超える者として、ルルーシュが認めた騎士。
同胞を何人も手にかけ、裏切り者と呼ばわられても顔色一つ変えなかったスザクは、かつて自分の傍らで笑っていた彼とは、決定的に変わってしまったのだと思っていた。
「スザク」
――――今この場で、彼が何も変わっていない事に気付くなんて。
「死ぬ気なのか?」
ちいさくかぶりを振り、違うよジノ、とスザクはうっすらと笑む。
「僕は――――もう死んでいる身だよ」




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