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ぽつぽつと、地面を叩く雨粒を見つめ、溜息をついた。
朝方に「傘忘れるなよ」と言っていたのは、心配性の兄だった。こんなに晴れてるし、天気予報も雨なんて言ってないし、と苦笑しながら、そのまま家を出て。
「……………」
雨にぬれることは別に苦ではない。
ただ、ずぶぬれの自分を見る兄と――――彼女の顔は、あんまり想像したくないのも事実だ。
雨宿りして、なんとか小雨になるのを待つかと息をついたところへ。

「ロロじゃん、どうしたの」

振り向いた先に、つんつんと跳ねた赤毛が見えた。答える前に彼女は「うわ、すっごい降ってる」と顔をしかめる。
「カレンさんこそ。こんな時間までなにを?」
「補習」
自分のせいなんだから、そん なに心底嫌そうに言わなくても。
笑いながら返したこちらを、じっとりとにらんで。
「ロロ、ルルーシュの天気予報、聞かなかったんでしょう」
あいつのは、なんか独自の情報網の予測がどうのって、そこらのテレビ局顔負けなのよ。
「……後悔してますよ」
「下手に濡れて帰ったら、お説教とべったり世話焼きでしょうからね」
「あはは」
ま、今日は別のお小言かもしれないわね。苦笑めいた一言に首をかしげると、不意に。

「ロロ」

ナナリー、と呼んだ声はかすれた。横に居たカレンさんは、にこりと笑い。
「……迎えにきたんだ」
「はい」
足のリハビリの経過は順調で、もうほとんど杖なしで歩ける。けれど、あの兄がよく雨の日の外出を許したな、と言いたげな カレンさんの声に、ナナリーは小さく舌を出して。
「ミレイ会長から電話きてて、その隙にこっそり出てきちゃいました」
まさか一人で、と視線をめぐらせたら、咲世子とかつんと視線があった。
その辺り、ぬかりがないのはさすがあのひとと言うべきだろうか。
「……濡れてない?」
平気、と笑いながら、ナナリーは僕の傘をこちらに差し出した。
「ロロこそ。走って帰るつもりだったんじゃないでしょうね」
お兄様の天気予報を聞かないからよ。肩をすくめる彼女に、そうだねと笑ってみせる。
「あ、カレンさんも、よかったら」
「それ、ナナリーのでしょ。私に渡しちゃったら自分が濡れるでしょうに」
「私は」
そこで。白い腕が、僕の腕にするりと絡むのが分かって。背筋 がびきんと音をたてて強張った。
「ロロと一緒の傘で帰りますから、だいじょうぶ」
ね。間近で愛らしく微笑まれ、僕はぎこちなく頷いた。


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ラブラブ相合い傘は、遠香さんが描いてくれると信じてる。