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◆シャルルとマリアンヌ


部屋に入ってきた男を見るなり、彼女は珍しいと声をたてて笑った。
その声に男は眉をひそめる。
珍しい、と言われることじたいおかしいのだ。彼女は自らの妻で、その妻の部屋に来て何が悪いというのか。
「それなら、他に百以上も訪ねる部屋がおありでしょうに」
「今更嫉妬か?」
「まさか」
いちいち嫉妬に身を妬いていては、あなたの奥方は務まりませんし。笑う顔には毒気はない。
「今はあまり動けませんし、何につけても眠くて」
膨れた腹をさすりながら、くすくす笑う。
「そのことだ。先日、派手にやったらしいではないか?」
お耳のはやいこと。悪戯をとがめられた子供のように、小さく舌を出す。
「マリアンヌ。あとどのくらいだ」
「2ヶ月ほどですか。安定期ですから、多少は平気ですわ」
けろりと言う笑顔に、男は顔をしかめた。
「刺客相手に大立ち回りするのは『多少』なのか?」
「ええ」
ためらいのない返事に言葉をなくした。
「あなたと私の子ですもの。それに上にあれだけ皇子様がいますのに」
今更この子の命を奪ってなんとしますか。
「マリアンヌと儂の子だから、妬んでおるのよ」
「まあ」
女は怖いわ。
自らもそうであるくせに、まるで他人事のようにつぶやいて。
「心配なさらずとも大丈夫ですわ、あなた。母は強いと言いますもの」
今でも十二分に強い彼女は、凜と笑って見せた。




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