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◆ロイドとマリアンヌ


その人は、皇妃という立場とは思えないほど、気さくで朗らかだった。新しいナイトメアフレームのテストパイロットに立候補された時はどうしようと思ったが。
「腕は鈍られていないようですね、マリアンヌ様」
「模擬戦ですもの」
額に浮いた汗をぬぐう様は、二児の母とは思えぬほど若々しい。
「参考になるかしら、ロイド博士?」
「十分です。それに自分はまだ一研究者でして」
博士など、と手を振ると、皇妃はにこやかに笑った。
「いずれそうなるわ。きっと」
嫌みのない、素直な賞賛に聞こえた。
「そんな未来の博士に、ちょっと質問をしてもいいかしら」
どっちかというと謎かけだけれど。悪戯っぽく笑った皇妃は、こちらの答えを待たずに口を開いた。

「マリアンヌ様」
白い墓標は答えない。
彼女がその夫とともに、世界を無に帰そうとしていた……そう苦々しく教えてくれたのは、他ならぬ彼女の息子だった。
「謎かけの答えを、お返しせぬままでした」
あのとき、悪戯っぽくつぶやかれた一言。

『あなたの作ったナイトメアフレームが、あなたを殺すような事態になったら……どうする?』

あの時は、不敬かと思い口に出さなかっただけで、実は十年近くたった今も答えは変わっていない。
成る程、自分はあの時にはもう壊れていたのだと自嘲する。
「マリアンヌ様…そんな事態になったら、僕は喜びますよ」
自分の作った機体が、最高のデヴァイサーを得て、最大限の力を発揮しているのだから、きっと両手をあげて歓喜のまま、この世を去るだろう。
「科学は人間を進化させるだけのものではありませんから」
マリアンヌ様。未知数の力に頼ってまで、あなたが絶望し壊そうとした世は、今その息子が違う方法で粉々にしようとしている。
「彼の前では、僕は壊れているのを少し恥じるようになりましたよ。それは良いことなんでしょうかね、マリアンヌ様」
白い墓標は答えない。
小さく笑みをこぼしながら、それでも墓に問うことをやめようとはしなかった。――――



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