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◆家族の風景


朝食後の少し落ち着いた時間。
マリアンヌは夫シャルルが滞在した際の習慣のひとつの、その髪を結う作業に取りかかった。
夫の髪は柔らかくて多く、そして長い。普段は女官が二人がかりで結うらしいが、マリアンヌは器用に手際よく、くるくるとまとめていく。
今日はそんな様子をそばで見つめる小さな影があった。
「どうかした?ナナリー。」
大きな目をいっぱいに開いて母の手元を見つめる娘は、問いかけに感嘆した様子で答えた。
「すごーい、お母さま!お父さまの髪くるくるって、魔法みたい!」
子供の純粋な声にマリアンヌは笑みをこぼした。
見るとシャルルの肩も揺れている。きっと夫も笑みを浮かべているのだろう、表立てないけれど子供たちを気にかけているようであるからだ。
本当はその手で触れたいのだろうに。
そんな気も知るよしもなく、ナナリーは恐る恐るという手つきでシャルルの髪に手を伸ばしている。
「あらナナリーもやってみたいの?」
くすっと笑うと、娘ははにかんだ顔でこちらを見た。目には好奇心の光がキラキラ輝いている。
「ダメだよナナリー!お母さまの邪魔になるだろう?」
後ろからのとがめる声の主は息子のルルーシュだった。どうも父親を少なからず苦手に思っているようで、いつも妹のすぐで側につきっきりなのに、今は少し離れた場所から心配そうに見ている。
「おにいさま、だめなのですか?どうして?」
「お母さまの邪魔になるからダメなの。」
優しい兄のいつもと違う強い口調にナナリーはふくれる。ルルーシュからすれば自分は苦手な父に可愛い妹が近寄ってほしくない気持ちが強いのだろう。
二人のそんなやりとりも、マリアンヌには微笑ましい。
「そうねぇ、まだナナリーには難しいかもね。」
ウインクをひとつナナリーに投げ掛けるが、娘は不満げにえーっと声をあげた。
「代わりに私の髪を編んでもらおうかしら。ほらこの前お兄ちゃんに教えてもらってたでしょ?ルルーシュと一緒にね。」
マリアンヌはそう言って息子の方を振り返ると、目があったルルーシュは照れかくしぎみの笑みを返してきた。

今日は良い天気になりそうだから、子供たちを連れて少し遠くまで散歩に出よう。
そんな事を考えながら、マリアンヌはブラシを持ち直した。

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家族イラストを思い出して考えついた話。
実際はあんな髪型一人じゃ結えないと思います…