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◆strawberry memories


届けられた段ボールから出して床に広げたソレを、ニーナはまじまじと見ていた。思い切って買ってしまった。 けれど、どうしよう…。
申し込む時は勢いだった。申し込んだあとにさんざん迷った。そして現物が届いた今もまた迷い始めたとき、部 屋の扉がノックされた。
「ニーナ、いる?いいかしら〜?」
ここに来たときから気にかけてくれる、カノンの声だ。
「あ、カノンさん、え、あ、いいけどちょっと待ってくだ…!」
声にあわてて答えながら床のソレを抱きかかえたとき、ドアがシュンと開く。
「頂き物のお菓子がね、最近話題のパティシェのだったから貰ってきたのよーお茶でもと思って。…あら。」
カノンが目にしたのは、真っ赤な顔をしてチェックのワンピースを抱きしめているニーナの姿だった。横にある 段ボールからは可愛らしい春色のパンプスものぞいている。
「あら、あら。あらあら、ニーナ。」
カノンはにんまりと笑う。まずは手にしていたお菓子とお茶のセットを机の上に置く。そして真っ赤な顔のまま 固まっているニーナのところへ歩み寄った。
「なーに、可愛いじゃない、それ。ニーナもおしゃれに目覚めたのかしら!」
「いえ、えっと…」
おろおろとするニーナの姿も愛らしいと思う。
カノンにとってニーナは同じ上官に仕える後輩である。やってきたばかりの頃は世なんだか地味な学生だった。
とんでもなく優秀と聞いていたけれども、それよりも人なりの危うさが気になって放っておけず、妹の様に世話 を焼いていた。人見知りするらしい彼女がいつしか自分になついてきたと実感した時は嬉しく思ったものだ。
世界中を巻き込んだ騒動も落ち着いて、新しい国の宰相付の副官になった自分は、研究所勤めの彼女とは頻繁に 会うことはなくなった。が、ヒマを見つけてはこうして様子を見にきていた。
「…デート?誰に誘われたの?」
耳打ちするかのように顔を寄せてカノンはニーナにつぶやいた。ニーナはがばっと音がしそうな勢いでカノンの 方へ顔を向け、ぶんぶんと横に首を振った。
「ち、違うんです!そうじゃなくて…」
「じゃぁ、なーに?」
「…ミレイちゃんから、メールが来て…もうすぐ桜が咲くから、みんなで日本に集まらないかって…。」
…まだ、返事は出してないんですけど…と、声は小さくなっていく。
あの騒動のあと、ミレイからはたまにメールを交換する様になっていた。
新しいアドレスをどこで知ったのか(きっとロイドが教えたんだろう)始まりはたわいのない近況と、ニーナの 様子を案じる一文。ミレイらしい。
少し間をあけて、よそよそしいぎこちない返事を出すと、2日とあけずに返事が返ってきた。
それから少しずつ。
みんなで会わないかというメールが来たのは、年が明けてしばらくしてからだった。
桜が咲いたらみんなであえたらいいね。あの頃みたいに。
あの頃みたいに。まだちっちゃくて世間知らずだった自分たち。箱庭で過ごした日々は何にも代え難い宝物で、 今の支えだ。

「それで、会いに行くときのよそ行き買ったってって訳ね。いいじゃない、いいじゃなーい」
嬉しそうにカノンはいう。
研究所ではいつも制服、部屋に帰れば誰に会うわけでもないからとジャージや楽な部屋着ばかり。もともとおし ゃれと言っても何がいいのかちんぷんかんぷんなニーナも、年頃の少女だ。少しは可愛い服も着てみたい。変わ った自分を見て欲しい。
そんななか、ネットストアのカタログをみて、いいと思ったのが赤いチェックのミニ丈のワンピースだった。モ デルがくるくる回るサンプル動画の、ひらひら揺れる裾に惹かれた。そしてそのまま、モデルが身につけていた 一式を買ってしまった。
「…でも似合いませんよね、私にこんなかわいいの…」
ぎゅっとワンピースを握りしめて、ニーナは力なく笑う。
カノンはしょうがないなと思った。研究に関する時のニーナはあんなに自信にあふれ、輝いているのに。
「もう、しょうがないわね。ニーナには魔法をかけてあげるわ。」
「まほう…?」
「そうよ。おにぶさんが気づく魔法。」
そういうとカノンはニーナの頬を両手で挟み込む様につつむ。くっと上に上げて無理矢理笑顔を作らせる。
「か、かのんしゃん?」
驚き顔のニーナに向かってカノンはにっこり笑う。
「ニーナは可愛い。笑ったら、もっと可愛い。キラキラしてて、まぶしいわ。」
早く気づきなさい。知らないのはあなただけよ。
そういってウインクする。手を離すとぼんやりしたニーナの顔。
「ほんと、ですか?」
「あら、私の言葉が信じられないの?」
カノンがいぶかしげな目線を送ると、ニーナはぶんぶんと首を振る。
「ありがとう、ございます…」
真っ赤になってつぶやくニーナに自然に笑みがこぼれる。
ああほんとうに、可愛らしい。
「そーね、それなら行くまでにお化粧と髪の巻き方も教えてあげる。ニーナは器用だからすぐうまくなるわよ。」
まずはお茶しながら作戦会議といきましょうか。

カノンがそういうと、ニーナは花がほころぶ様に笑顔をみせた。


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某所で見たニーナが可愛らしすぎたので。なんかカノンさんってこんなんだっけか…(私のイメ−ジって…)
カノニナと言うか、女子校のノリみたいだ。